便秘とは「便が出にくいこと」ですが、もう少し細かく考えてみると、以下のような状態が便秘とされています。
このように一口に便秘といっても人によって様々な症状があることがわかります。
便秘によって日常生活に支障をきたしたり、体に支障をきたしたりすることを便秘症といいます。つまり、便秘のせいで勉強や仕事に集中できなかったり、腸閉塞などの病気を起こしたりすると便秘症となります。
つまり便が出にくいけど生活する上で困っているというほどではないのが便秘で、それによって生活や体に支障をきたすと便秘症となり、病気として治療が必要ということになります。
慢性便秘症の診断基準というものがあって、これチェックリストみたいなものでチェックが2つ以上ついたら慢性便秘症としましょうという医師用の手引きです。
便の硬さや回数については細かく決められています。
これらの6項目のうち2項目以上を満たすと便秘症となります。これが6ヶ月以上前からあるものを慢性便秘症とすると決められています。
でもこれにはただし書きがあって、日常診療では医師の判断に任せるとなっています。つまり、細かいことは決めているけれど、実際には医師の判断で便秘症かどうかを決めていいですよということです。
なので、便が出にくいことで困っている場合には、まずは気軽にご相談ください。お話をうかがって、食事・生活などで工夫できることがあると思うのでアドバイスさせていただきます。また、希望があれば薬などの治療を始めることもできます。
便秘症には大腸の働きや大腸そのものの病気によっておこる一次性便秘症と、別の病気や薬の影響でおこる二次性便秘症に分けられます。
一次性便秘症はさらに、大腸の働きに問題がある機能性便秘症と、小腸や大腸や直腸などに問題がある非狭窄性器質性便秘症があります。二次性便秘症は薬の影響で起こる薬剤性便秘症と、糖尿病などの消化管以外の病気によって起こる症候性便秘症、大腸癌などの腸の病気によって腸が狭くなって起こる狭窄性器質性便秘症があります。
ただし、これらの分類はすっきり線引きされているものではなく、どれになるかはっきりしないこともあります。いろんなことが原因で便秘になるんだなということを知っていてください。
女性・活動性が低い人・おなかの手術をしたことがある人・高齢者が便秘になりやすいことがわかっています。
食物繊維をとると便秘になりにくいとはよく聞きますが、食物繊維をとればとるほど便秘が解消されるというわけではなく、あくまで食物繊維が不足している人がとれば便秘がよくなるとされています。
また、遺伝するかということについては意見が分かれていて結論は不明です。
便秘症の患者さんの多くにうつ・不安などの症状をみとめるという報告があります。これだけなら便秘症になったことがストレスになっているのか、仕事や勉強のストレスが便秘症を引き起こしたのかはっきりしません。
しかし、心理学的な治療が便秘症の症状を軽くしたという報告もあって、日常生活のストレスが便秘症に影響を及ぼしている可能性はあります。
仕事や人間関係のストレスを回避したり、解消することで便秘症が少し良くなる可能性はありそうです。
便秘で排便時にきばりすぎると意識を失ったりすることもあって、心臓や脳の血管に悪影響を与えるという報告もあれば、死亡のリスクとは関係ないとする報告もあって、意見が分かれているので今のところ命に関わるとは言えません。
しかし、便秘症の人はそうでない人に比べて、QOL(quality of life:生活の質)が低いと報告されています。健康面・社会面・精神面での満足度が低いということで、さらには労働意欲の低下もあって、経済的な損失につながっているとされています。
命には関わらないけど、より良い生活を送るためにはきちんと治療したほうがいいということになります。
食物繊維や発酵食品が便秘症に効くというということをよく耳にしますが、食物繊維をとれば便秘がよくなると決まっているわけではありませんが、もともと食物繊維が不足している人が食物繊維をとると便秘が改善すると言われています。こんにゃく・きくらげ・ひじき・わかめなど食物繊維を多く含む食品を食べるように心がけるといいかもしれません。
他にも、プルーン・キウイ・オオバコなどは便の回数が増えるなど便秘症に効果があることがわかっています。
乳酸菌飲料やヨーグルトなど腸内細菌を多く含む食品がたくさん売られていると思いますが、この乳酸菌などの「健康に有益なはたらきをする微生物」をプロバイオティクスと言います。
一番有名なのがビフィズス菌で、他にビフィドバクテリウムラクティス・エンテロコッカスフェカーリスなどがあります。排便回数の増加や、便が腸を通過する時間が短くなることがわかっています。
食生活の工夫やプロバイオティクスなどを飲んでみたりしてもよくならない便秘には薬が必要になります。
薬のほとんどは下剤です。他にも漢方薬を使うこともあります。
便秘は放置するとそれ自体がストレスになったり、仕事や勉強の意欲が低下するなど生活への影響が大きい場合には、薬の力を借りながら生活習慣を見直して、まずは便秘を解消して、それから経過を見ながら薬を減らしていくという方法がいいと思います。
下剤といっても多くの人がイメージするドーっと出て下痢してしまうような強めの下剤だけではなく、便をやわらかくするゆるやかな下剤もあります。
浸透圧で腸の中に水分を増やして便をやわらかめにして出しやすくする薬。
浸透圧というのは水が濃度のうすい場所から濃い場所に向かって移動して同じ濃さになろうとするときに働く力です。腸の中の浸透圧を上げると、腸の壁から水分が出てきて便の中の水分が増えます。
塩類下剤:酸化マグネシウム、マグミットなどマグネシウムを含むゆるい下剤で腸の壁から水分を腸の中にひきこみます。
糖類下剤:ラクツロースなど腸から吸収されない糖分が腸の壁から水分を腸の中にひきこみます。
浸潤性下剤:便の表面張力を低下させて便に水が入りこみやすくします。作用がゆるやかなので他の下剤に一緒に配合されています。
大腸の神経を刺激して大腸の働きをうながす薬です。
センナ、ダイオウ、センノシド、ピコスルファートなどがあります。
食生活の改善や浸透圧性下剤を飲んでも効かない場合に使用します。長期に内服すると効きが悪くなったり、くせになったりするので、症状のある時だけ飲むか、短期間だけ飲むようにします。
小腸の粘膜に働いて腸の中の水分を増やして便をやわらかめにして出しやすくする薬です。
小腸の粘膜上皮のクロライドチャンネルに働いて小腸内へのClイオンの分泌を促して小腸内への水分分泌を促します。アミティーザという薬とリンゼスという薬があります。リンゼスという薬は内臓痛覚神経という痛みの神経にも作用して腹痛を軽くする働きもあります。
胆汁酸の腸からの吸収を邪魔して大腸の中の水分を増やして便をやわらかめにして出しやすくする薬で、グーフィスという薬があります。
胆汁酸は肝臓で作られる胆汁の中に含まれていて脂質の消化や吸収を助けていますが、ほとんどは小腸の終わり付近で吸収されてまた肝臓に戻ります。胆汁酸トランスポーター阻害薬はこの小腸の終わり付近での吸収を邪魔します。すると小腸の次の大腸にたくさんの胆汁酸が吸収されないまま流れていってしまいます。これが大腸の中の粘膜細胞に働いてClイオンを分泌させて水分分泌をうながすとともに、別の粘膜細胞に作用して感覚神経を刺激して大腸の動きを活発にします。これによって便がやわらかくなり、排便の回数も増えます。
漢方薬はいろいろな生薬を組み合わせて様々な作用をもちます。
腸の動きをよくする生薬としては大黄(ダイオウ)と山椒(サンショウ)があります。大黄の成分は刺激性下剤の成分であるセンノシドが含まれていますので、大腸を刺激して働きをうながす作用があります。
大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)には大黄と甘草(カンゾウ)が含まれて、排便の回数を増やすことがわかっています。
大建中湯(ダイケンチュウトウ)には山椒、乾姜(カンキョウ)、人参(ニンジン)、膠飴(コウイ)が含まれていて、腸運動の改善やイレウスの改善を目的として一般病院でも広く用いられています。排便の回数を増やしたり、お腹の張りが改善したりすることがわかっています。
便秘は便が固かったり、回数が少なかったり、便が出にくかったりする状態で、それにより勉強や仕事にも影響が出ることがあります。便秘症で命が短くなるわけではありませんが、よりよい日常生活を送るために、便秘を解消することはとても大切です。
まずは、「便秘ですっきりしなくて困ってるんだよね」というときには私や当院のスタッフに気軽にご相談ください。
ストレス解消、食物繊維や乳酸菌飲料やサプリメントなど、薬に頼らない方法はたくさんあります。また、それでも難しければ、ゆるやかな薬や漢方薬もあります。比較的新しい下剤もあります。まずはいろいろと試して自分にあったものを見つけましょう。
こんなことくらいで相談してもいいのかなと遠慮する必要はありません。お気軽にご相談ください。
<参考文献>
便通異常症診療ガイドライン2023
Lacy BE, et al. Bowel Disorders. Gastroenterology 2016;150:1393–1407
クリニック名 | 二ノ切やまもとクリニック |
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